西山賢一氏著の『企業の適応戦略―生物に学ぶ―』という書籍を紹介する。

西山賢一氏著の『企業の適応戦略―生物に学ぶ―』という書籍を紹介する。


生物で適応戦略という時には、進化の過程で生物がどのような形をとり、どんな行動パターンをとって生き延びてきたのかを理論的に検討するところに関心があります。企業の戦略の時と違って、政策的な話はここにありません。生物を相手にして、君達はこのような戦略をとるべきである、と言っても仕方がないのだからです。このような生物の適応戦略のレベルまで戻って、企業の戦略を考えてみようというのが西山賢一氏著の『企業の適応戦略―生物に学ぶ―』という書籍の狙いです。これは企業の適応戦略をさらに政策レベルにまで発展させていくための基礎的な土台づくりの作業でもあります。ここで企業の適応戦略というのは、企業が環境に適応していこうとする営みのことであり、見方を変えると、企業と環境との間に広がった中間領域と看做すことができます。企業というのは物理空間から意味空間にまで広がった重層的な世界をもった存在であり、そのいずれの層においても独自の法則性が見られるような豊かな全体です。『企業の適応戦略―生物に学ぶ―』でそれらの重層性を、中間領域の持っている重層性として捉え、それを熱力学の層、ニッチの層、技術の層、組織の層、文化の層の五つの層から成るものとして検討しています。これらの層の各々において、適応戦略が考えられます(4頁参照)。


その中で、組織の層を詳しくみていくための手がかりとして、多様性という視点から環境とシステムの関係を捉えているアシュビーの法則というものがあります。アシュビーの法則は、必要多様度の法則とも呼ばれています。その内容は、次のように象徴的に表現されます。「多様性のみが多様性を打ち破ることができる」。これを言い直すと、複雑な環境の中で生き抜いていくためには、システムそのものが、少なくとも環境と同じくらいの多様性をもたなくてはならない、というものです。アシュビーの法則を応用してみましょう。多くの多様性をもった環境に適応していくために、システムはどのような手をうつべきでしょうか。アシュビーの法則に拠れば、一般に二つの方法があります。その一つは、環境の多様性に合わせて、システムの多様性を増やしていくという方法です。もう一つは、システムの多様性に合わせて、環境の多様性を減らしていくという方法です。勿論、環境の多様性そのものを減らすのは不可能なので、システム側で環境の多様性を何とか縮約しようというのです(131頁参照)。


要素からゆらぎが生まれ、そのゆらぎがまた要素に働きかけて同調を引き出し、これでゆらぎが成長していくというサイクルが、マクロな秩序が生まれてくるための仕組みとして浮かび上がってきます。この仕組みは、要素間に秩序を通じた協力的な相互作用が現れることがポイントになっているので、ハーケン氏はこれを特にシナジェティクスと名づけました。シナジェティクスの語源はギリシャ語であり、ともに働くという意味を持っています(160頁参照)。生きているシステムでは、階層はピラミッドのようにひとつずつ上に向かって重なっているだけではありません。ひとつの階層にはそれ以下の階層がすっぽりと含まれており、またその階層はさらに上の階層に含まれていきます。このような関係を再帰性と呼びます。ハーケン氏の考えは、秩序が生まれてくる時には、階層を問わずどこででも普遍的にシナジェティクスの仕組みが存在しているはずだというものであり、再帰性と密接に結び付いていることが分かります(162頁参照)。